日本の伝統的な住まいづくりを生業とする工務店として,今,何をなすべきかを考えます.
私たちの大工仕事には,二千年の伝統木造建築の歴史があり,技能,精神の隅々に先達の情念で研ぎ澄まされています.日本人の英智であり,真髄と同じです.日々仕事に携わることにより,春夏秋冬を愛し,侘び,寂びを旨とする日本人の知性と感性の素晴らしさを強く感じます.そして,その精神を今の日本で更により良く深化されることが,日本と世界に貢献できる日本人を創造することと思うのです.
明治期,岡倉天心,鈴木大拙など多くが海外に渡り日本を紹介しました.彼らの海外での記念写真を見るに,隣席する大男に負けない精神力にあふれた面構えは,現代人には無い精神的強さを感じました.
現在,私たちの日常の生活は西洋式であふれています.おかげで,洋画や海外のニュースを見ても,何ら,めずらしさや違和感を覚えず,物語や出来事を直感的に理解出来,楽しめます.全世界的にバリアフリーの情報網がアメリカ,ヨーロッパの生活様式を私たちの日常に根づかせてしまいました.
住まいのデザインも同様で,新築住宅は洋風の外観が多く,和風の建て売り住宅などは,最近,ほとんど見かけません.和室すら居間の隅に追いやられて三畳や四畳半の畳敷きコーナーとなってしまいました.近々室内を靴のまま歩きまわる時代も始まるのではないかとさえ,心配になります.正座,座礼ができなくなります.
現代社会がイギリスに発する産業革命の恩恵の上に成り立っているため,西洋式の吸収は不可欠,必然と理解出来ますが,様式だけの鵜呑みはゆくゆく消化不良を起こすだろうと考えます.
私たち工務店を取り巻く状況も,法律の厳格化,アメリカ流の契約社会,交渉社会の浸透など,住まいづくりにビジネスの色付けがますます強くなってきています.ご近所のよしみによる住まいづくりが少なくなってきました.ならば,この時こそ,日本流の心を込めた仕事に専心し,伝統の心を伝えることが,私たち工務店の第一の役目と考えました.